息継ぎもせず、活字の海を〜潜水編〜

前回のコメント欄にて、お薦めの本があれば、とのコメントをいただきましたので、今回から3回にわけて、本のお話をしていきたいと思います。

今回、自分の既読本をまとめるにあたって、思いの外冊数を読んでいない(買ったものはほとんど積んでる)という浅さが露呈しました。無念。
そこで、そんな少ない冊数から更に絞って、今回はこちらの七冊を紹介しようと思います。
共通点は「人生レベルで衝撃を受けた小説」ということ。最初からクライマックスだ!






まずはこちら。
橋本紡半分の月がのぼる空

でたよ。いきなりラノベだよ。なんて嘲笑気味に思っているそこのあなた。最近の(といってもこれは古いですが)ラノベをナメちゃいけませんよ。
中学時代、よく泊まっていた友人宅にこれを持ってきたエンブリヨくん。今思えばなんで友達とキャッキャッするのに本なんぞ持ってきていやがるんだよと思わなくもないですが、彼が読み終えた後何気なく借りたのが運のツキというやつです。
結局、その日は寝ることもなく、日の昇る時間まで読み続け、数時間で読み終えるくらいどっぷりハマリ、以降続刊が出るのを待ち続けた本です。
青春と恋と少年と少女と生と死という、ラノベ的ド変化球(と勝手に思っている)でありながら、思春期ど真ん中の僕にはドストライクな内容でした。
惜しむらくは、ヒロインの名前が血縁上母に当たる人と同じで、いまいち萌えられなかった、ということ。
いや、当時「萌え」ってあったのか。
どちらにせよ、僕が大いに道を踏み外さなかったのは、ヒロインの名前が母親と一緒という、なんかもうここに書いてるだけで悲しくなってくる事実によるものだと思います。


続いてはこちら。
司馬遼太郎燃えよ剣

燃えよ剣(上) (新潮文庫)

燃えよ剣(上) (新潮文庫)


言わずと知れた司馬遼太郎先生が言わずと知れた新撰組の始まりから終わりまでを綴った歴史小説
この本を読んで歴史小説を面白いと思えるようになりました。心の底から、もっと早く読みたかったと思っています。そうすれば日本史のテストでも良い点取れたろうに・・・(幕末のみ)
そして沖田総司=病弱な剣術の天才にして、普段は憂いと優しさの漂う好青年、みたいな設定の源流はここじゃねぇかなと個人的に思っています。
ちなみに、同じく司馬良太郎著の「新撰組血風録」では、燃えよ剣とは真逆の沖田総司も観る事が出来る辺り、歴史と小説って面白いな、と思います。
というか、有名すぎて書くことない。


続いてはコチラ。
宮沢賢治銀河鉄道の夜

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

有名すぎて書くことないその2。
大体、今日び銀河鉄道の夜がお薦めの本とか言うのもどうかと思いますが、意外に読んでない人もいる気がするので推し通る!
・・・とは言うものの、もはや説明不要というかなんというか。宮沢賢治の名を冠する本にはかなりの確率で入っていると思われます。
ちなみに、リンクを貼ったバージョンに入っている物語で好きなのは、銀河鉄道の夜と黄色いトマトです。
僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。
ほんとうのさいわいをさがしにいくんだ。
だから有名すぎてk


そしてそして。
重松清「その日の前に」

その日のまえに (文春文庫)

その日のまえに (文春文庫)

某友人の某先輩から某歌手のライブ後に言った某居酒屋で教えていただいた小説。某がいっぱい言いたかっただけです。
基本SFフリークな自分では一生選ぶことがなかったであろう内容の本です。
こちらは連作短編集というのですかね。たくさんの物語が、人や場所やもので繋がりながら、別々の主人公をメインに進んでいく物語です。
涙することうけあい。そんじょそこらの恋愛小説で涙する人は死にます。脱水症状で。
これを涙なしに読む事の出来る人間がいるとすれば、そいつは今まで食ったパンの枚数を覚えていないような人間です。URRRYYY!
前述した「半分の月がのぼる空」と共通するテーマでありながら、読後感はちょっと違います。
物語は、歴史小説でない限り、登場人物の人生の中にあるひとときを切り取ったものであることが多いと思います。
物語は終わっても、登場人物達の人生は終わらない。
物語の中で得たものや失ったものの果てに、何か見つける。けれどもそれは物語の終わりであって、切り方ひとつでまったく違う感動があるものです。
人が生きている限り消し去ることの出来ないものがテーマであれば、尚更に。
どこかにいるかもしれない誰かの人生の一片が、読んだ人の何かを変えてくれることもあるとすれば、この本は間違いなくそういう本です。
創作と思うなかれ。いや、創作なんですけどね。


伊藤計劃虐殺器官」「ハーモニー」

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

創作された物語であっても、創作した人は生きている人であり、創作された物語はつまり、その人の経験や知識によって紡がれているわけです。
だから、現実にはいない登場人物たちであっても、その思いや感情や意志は、血の通ったものであると、僕はそう思っています。
伊藤計劃。この駄文散文極まりない場所で僕に付き合ってくれている人なら何度か目にしたことのある名前と思われます。
彼は先日芥川賞を受賞した円城塔先生とほぼ同時期にデビューした、ゼロ年代のSFを支えるであろうと言われた人です。
伊藤計劃先生がこの世界に遺した物語は、冊数にして3冊。死後編纂された書籍2冊をあわせても、片手で数え終えてしまう少なさです。
彼は病床で物語を書き続け・・・と長々と作者のお話をしそうになったので割愛します。
虐殺器官は、テロと、戦争と、そして言葉が織りなす近未来のSF。
ハーモニーは、「生きること」に取り憑かれた人類がその臨界へと向かう遠未来のSF。
ここに紹介した2冊は、どちらもSF好きなら是非読んでいただきたいです。
いずれ来るかも知れない未来。かつてジュール・ヴェルヌH・G・ウェルズ、あるいはロバート・A・ハインラインが己の知識と展望、そしてきっと希望を織り込んだ物語たちのように、この2冊で描かれた世界も、100年後、少しだけ現実になっているのかもしれません。
ちなみに、伊藤計劃先生が遺した最後の物語の構想を、円城塔先生が執筆なさるとか。
創作という命脈が続く限り、その作品を愛する人がいる限り、「作家、伊藤計劃」というイコンは在り続けるのですよ。

ね、ねぇねぇ!今ちょっとアレじゃない!?いいこと言ったんじゃない!?ねぇn



上記で書かなかったものの、この方も希代のSF作家です。
ジェイムス・P・ホーガン「星を継ぐもの」

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

有名すぎて書くことないその3。
人類が偶然、月面で見つけた「赤い宇宙服を着た人」は、存在するはずのない数万年前の人類だった―。
みたいなざっくりした説明で面白そうだと思ったあなた。きっとSFが好きなんですヨ。
SF小説というものは、その世界観の説明に前半、あるいは中盤までを割かざるを得ないことが多く、この「星を継ぐもの」もその例に漏れず説明の嵐です。
ですが、この小説での説明は同時にその場面の重要な武器になっており、立てられた仮説が次から次へ転じる様は、ディベートという戦場で飛び交う弾丸の如く、ドキがムネムネします。死語。
ちなみにこちら、三部作の第一部なのですが、その終わり方があまりにも良すぎて、未だに第二部に食指が動かないという、なんかあの感動に続きなんていらねぇよ的思考に陥ってしまう名作です。そこにはおそらく、訳者の力もあるだと思いますけれど。


めいれい:ガンガンいこうぜ
稲見一良ダック・コール

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

ハードボイルドにして日常もの(個人の見解)であり、そして鳥と銃が好きな作者の愛ラヴがユーしちゃった小説です。
連作短編集というわけでもありませんが、始まりと終わりの物語の中で、その他の物語が語られるといいますか、短編なのに長編を読んだ気分になれる本です。
人も場所も時間も違う中で、前述した鳥と銃だけが一貫して登場します。銃が好きだからと言ってファンタジックな世界というわけではありません。猟師のそれのように、僕たちの親しんでいる生活の中にある銃がよく出てきます。
っていうかさっきから銃ばっかり推してますが、別にドンパチものじゃないですからね。
人と人との繋がり、人と自然との有り様、そんな感じの物語です。


そして、ラストを飾るのは。
奈須きのこ空の境界

空の境界 上 (講談社ノベルス)

空の境界 上 (講談社ノベルス)

いやまぁ、なんといいますか、センスのある人が中二病を発症して、極めるとこうなるっていうか。
けして、けして万人にはお勧めできないんですが、だからこそカルト的なファンもいるという作品です。
この物語、語り部である主人公を除けば、登場人物のほとんどが異能者です。
いや、ある意味でこの主人公も無能故に異能なのですが。ヒュー!中二っぽい!
ジャンルはおそらく伝奇もの。笠井潔先生とかあの辺のジャンルです。いや、笠井作品読んだことないんですけどね。
人やモノの「死」という概念を視覚で捉えることの出来る異能“直死の魔眼”を持つもう一人の主人公の存在こそが、物語のキモだと思いますけど、なんか不安なのでちょっと型月教(狂)のアイツに聞いてくる!






どうですか、この統一感のなさ。そしてスタンダードの多さ。
なんかもう、本好きを名乗ってはいけないんじゃないかとどぎまぎしてしまうレベルですよ。
と、ちょっとしおらしい気持ちになった感じにとってもらえただろうと勝手に思いつつ、次回に続くッ!

次回、『遊泳編』